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有元美津世のGet Global!

スリランカ(7)-- 経済回復の兆し2024.04.23

 

私は、2022年にスリランカに1ヵ月滞在した際、非常に気に入ったので、昨年12月に、また1ヵ月滞在しました。経済危機の影響で物価はさらに高騰していましたが、通貨の暴落により、米ドル換算では物価感は一年前と、さほど変わっていません。しかし、地元民にとっては、物価高騰は日々の生活に重くのしかかっており、首都コロンボに限らず、街には路上生活者や物乞いをする人が増えていました。

 

経済回復の兆し

 

アジア開発銀行(ADB)によると、スリランカの経済成長は、2023年はマイナス2.3%だったものの(2022年はマイナス7.3%だったのでマシに)、2024年はプラスに転じ1.9%、2025年には2.5%の成長が予測されています。新興国としては低い成長率ですが、マイナスからの出発なので、長い目で見るしかないのでしょう。インフレは一桁に落ち着き、外貨準備金も昨年終わりからかなり増えており、一応、危機的状態は脱出したようです。

 

観光業の回復

 

スリランカ政府は、昨年の終わり、16年ぶりに(!)グローバルツーリズム・キャンペーンを開始しました。とくに海外からの観光客の2割を占める隣国インドで観光客の招致に力を入れています。

2023年、海外からの観光客は150万人に達し、前年に比べ倍に増えました。12月から日本を含む7ヵ国に対しETA(Electronic Travel Authorization)が無料になったのが功を奏したのか、12月の観光客数は前月を33%上回り、その後、月21万人前後を保っています。スリランカ政府では、2024年には250万人、2026年には500万人を目標としています。

 

観光ビザの変更

 

スリランカの入国にはETAが必要なのですが、先述のように、昨年12月から日本人は無料となりました。(私は、12/3の入国だったので11月末に取得してしまい、50米ドル支払いましたが...)この措置は、当初、今年3月までの試験展開でしたが、4月末まで延長されており、今後も続行される可能性が高いです。日本以外に、インド、中国、ロシア、タイ、インドネシア、マレーシアが対象となっています。

ただし、今月17日から、ETA発給サイトがスリランカ入国管理局の管理から民間企業に委託され、混乱が生じています。(サイトに何らかのバグがあるようで、申請ができない状態。)

日本を含む7ヵ国のパスポート所有者が、30日有効のETAを無料で取得できることに変わりはないのですが、それ以外の国は、6ヵ月有効のものが75ドルとなり、有効期間が延びると同時に(50ドルからの)値上げとなりました(南アジア地域協力連合加盟国のパスポート所有者は35ドル)。一度の滞在は60日までなので、6ヵ月有効のETAでも、2回に分けて最高120日までしか滞在できません。(半年の間に2回訪問するという観光客は少ないので、スリランカ政府の意図が不明...)

日本や欧米の観光客は、多くの国にビザ免除で入国できるので、ビザ取得に75ドルかかるのでは他国を選ぶ観光客は多いでしょう。何十年もの間、経済政策の失策続きのスリランカですが、せっかく観光業が回復しつつあるのに、またも失策で、回復の芽を摘んでしまうのでしょうか...

・White Only

一方、スリランカ政府は、3月にロシア人とウクライナ人に対し、観光ビザの延長を許可していた特別措置を打ち切りました。インドに次いで多いのがロシアからの観光客なのですが、同国には、過去2年で、ロシア人28万人以上、ウクライナ人2万人以上が入国しました。

実は、昨年から、イスラエル人に加え、ロシア人やウクライナ人が、観光ビザで入国して、無許可で飲食店やナイトクラブを経営していることが発覚し、問題になっています。主に観光客に人気の南部のビーチで、自国からの観光客をターゲットにし、従業員も自国人を雇い、スリランカ人からビジネス・就労チャンスを奪っているということで、スリランカ人の反感を買っているのです。今月には、こうした違法店を通報できるホットラインも設けられました。

そうした中、2月には、人気のビーチ、Unawatunaにあるロシア人経営のレストランバーで、白人限定(White Only)のパーティーが開催される予定だったのですが、地元民の間で「人種差別!」が叫ばれ、キャンセルに追い込まれました。

この件は、スリランカ人の(英語の)オンラインコミュニティでも大騒ぎとなり、数日、炎上していました。(レストラン経営者とは異なる)主催者のロシア人は、多くの誹謗や脅迫を受け、家族とともにスリランカを去ることになりました。「まさか、こんなことになるとは...」と投稿していましたが、白人に植民地化された過去がある国で「白人限定」のイベントを行なうというのは、あまりにも無神経(insensitive)と言わざるを得ません。*

この件では、在錫ロシア大使館も介入を余儀なくされ、「いかなる人種差別や国粋主義を糾弾する」と表明し、かつ在錫ロシア人にはスリランカの法律や慣習に従うよう促しました。

先月、日本での”Japanese Only”表示を取り上げましたが、”White Only”の場合、「白人のみ」以外に解釈の仕様がありません。ロシア人にも白人でない人は多数いますし、「ロシア人限定」でなく、「白人限定」ということは、国籍でなく、人種で限定したかったのでしょう。(主催者グループにはイギリス人も含まれていたし。)

・Foreigners Only/No Locals

ちなみに、常習的にスリランカ人の入店や宿泊を断るのは、主にスリランカ人経営者であり、よく地元民が憤っています。断る理由として「地元人は物を破壊していくから」「(とくに女性に対して)マナーの悪い地元民がいると外国人客に嫌がられる」が挙げられ、コロナ前までは”Foreigners Only”(外国人のみ)、”No Locals”(地元民はお断り)といった表示をしていた店や宿泊施設は珍しくなかったようです。なお、スリランカでの白い肌に対するコンプレックスは、インドと同様です。



* このように入店を制限することは”face control”と呼ばれ、クラブの雰囲気を保つために主にロシアや東欧の高級ナイトクラブなどで行なわれる。通常、社会的地位や服装、物腰などで判断。キャンセルされたパーティーの告知には、”Face Control: White, Dress Code: White”と記載。ロシアでは普通に行われることなので、深く考えずに当たり前のこととして企画されたもよう。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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