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タカシの外資系物語

“グローバル人材育成プログラム”にモノ申す ! ( その 1 )2011.12.06

活発化するグローバル人材育成

・ トヨタ自動車は、採用内定者が入社前の半年間、海外に留学できる研修プログラムを始めると発表した(日経新聞 2011/10/7 付朝刊)
・ 日立製作所は 20 歳代から030 歳代前半までの若手社員を対象に海外派遣を大幅に増やす。2011 - 12 年度の 2 年間でその前の 2 年間に比べ 10 倍の合計 2000 人を派遣する。派遣先の 3 分の 2 は今後、事業の比重が高まる中国など新興国とする(日経新聞 2011/10/15 付朝刊)
・・・

 

最近、日系の大手企業を中心に、「グローバル人材育成プログラム」が活発化しています。それらプログラムの特徴は、以下の 3 点に集約できると思います。
● 若手(20 歳代や採用内定者)中心
● 対象者が“大量”である = 当該年代のほぼ全ての社員が対象である
● 欧米先進国から、中国など新興国中心となっている

 

背景には、もはや国内の内需中心ではビジネス展開が見込めないことに加え、昨今の円安も大きく影響していると思います。一方で、若手のみなさんにとっては、またとないチャンスです。「俺は国内でいいから・・・」なんてこと言ってないで、是非、グローバルに羽ばたいてほしいところ。私が若手だった頃なんざ、ごく限られたエリートにしか、海外への道が開かれていませんでした(『海外に行きたくないのかーーーっ!(T-T)』参照のこと)。それに比べれば、何と羨ましいことか・・・(T-T) 可能なら、年齢を詐称してでも、やり直したいくらいです。

「グローバル人材」の定義とは ?

さて、今回のコラムでは、上記のような 「グローバル人材育成プログラム」 の“弱点”ちゅうか、“矛盾”を述べてみたいと思います。

 

そもそも、企業がグローバル人材を育成しようとする動機、目的は何なのか ? それは、「グローバル(世界規模)でビジネスを展開するために、そこで通用する人材が欲しいから」 に他なりません。では、「グローバルで通用する人材」とは何なのか ?

 

英語 ? ま、それもあるでしょう。なんだかんだ言って、グローバルでビジネスをやる上で、英語はできた方がいいに決まっている。私だって、英語には悪戦苦闘した(今もしている ! )わけで、英語が堪能ならば、いらぬ苦労をしなくて済むのは確かです。

 

しかし、英語はやはり“手段”でしかないんですよね。英語めちゃくちゃでもグローバルで活躍している人はたくさんいるし、通訳を使う手だってある。乱暴な言い方をすれば、学校で習った最低限の英語さえできれば、何とかなるんです。なぜなら、英語は “手段” でしかないから・・・ なんですよね。

 

「グローバルで通用する人材」 を、私なりに定義すると、「多様性を認識して、物事を進められる人材」 となります。多様性とは、文化・宗教・慣習・人種・性別など、様々なものを含みます。多種多様な人が、多種多様な考え方をする中で、物事を前進させることができる能力を持つ人、これが 「グローバル人材」 なのだと思います。

 

私の定義でいけば、近所の商店街を仕切っている魚屋のおっちゃんなどは、潜在能力抜群です。八百屋、雑貨屋、乾物屋など、多種のステークホルダーをまとめて、大手スーパーに対抗するために年末謝恩セール企画を立てる・・・、これこそ「欲しい人材」です。場所が近所か、海外か、だけの差でしかありません。

 

実は、採用面接で聞きたいのはこういうことなんですけど、なかなかうまい回答をしてくれる学生さんはいません。「私はテニスサークルの幹事として、メンバーの多種多様なニーズを纏め上げました・・・」って、そういうのは多種多様じゃないって ! 同じ大学に入った時点で、それまでの生活環境は似たようなもんだと想像がつくし、かつ、同じテニスサークルに入っているんだから、極めて似た者同士が集まっているんです。そこで幹事をやったことは、「多種多様なニーズをまとめ上げた」というエビデンスにはならない。それをことさらに強調するから、心象を下げるんですよね・・・

 

“慰安旅行”と化す、“海外研修”の実態

 

話を戻しましょう。つまり、「グローバル人材」というのは、「多種多様をまとめる人材」ですから、企業の当該プログラムは、多種多様をまとめるための育成トレーニングでないといけない。しかし、そうはなっていない、“弱点” “矛盾”があると言っているのです。

 

例えば、ある製造業における若手を対象とした育成プログラムの中味を、以下に示します。
(1)入社 3 年目の若手対象に、海外の生産現場(工場)へ 1 ヶ月派遣されるプログラム
(2)同期入社 200 名を 10 名ごとにチーム分けし、東南アジアの工場へ派遣
(3)最初の 2 週間で、工場長(日本人だったりする)から、現地の生産システムやサプライチェーンの説明を受ける(座学研修)
(4)次の 1 週間で、生産ラインの見学。現地スタッフに直接質問することも可能。また、現地の繁華街に出向き、消費動向を見学。
(5)最後の 1 週間は、チームごとに○○工場の課題と改善策をまとめる。帰国後、役員含めた幹部にプレゼンする

 

・・・なんすか、これ ? 小学校の社会科見学でも、もっと過酷なミッションを背負わされますよ。これでは単なる、“慰安旅行”です。

 

「わが社は、こういう慰安旅行をする楽しい会社です」ということで、学生さんに福利厚生をアピールすることが目的なら、これでもいいでしょう。でも、「グローバル人材育成」が目的なのだとしたら、その効果については甚だ疑問です。

 

頑固親父のボヤキみたいになってきたので、結論を先に言いましょう。企業が本当に、「グローバル人材育成」を目指しているのなら、以下の方針で研修プログラムを作るべきです。
(1)どこの国の、どんな部署でも構わないので、「 1 人で行かせる」
(2)航空券のチケット、ホテルの予約、現地の移動も含め、「全てのプロセスを本人自身に任せる」
(3)座学の研修は不要。「いきなり業務の現場に入れる」
(4)帰国後に幹部向けプレゼンを課すなら、「△△国における新規ビジネス企画」を提起させる

 

次回のコラムでは、上記各項目の言わんとすることを、具体的な事例を踏まえてお話したいと思います。
(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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