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タカシの外資系物語

女性の社会進出を邪魔する“レガシー”とは ? ( その 1 )2011.10.18

ホワイト・ペーパーに記載された事例、その国は ?

私が勤めるコンサルティング会社では、年に 1 回、“ホワイト・ペーパー(White Paper)” なるものが発行されます。これは、各産業別・分野別に、現状分析と今後の動向等についてまとめたお客様向けの読み物でして、例えば、「銀行業における携帯端末の活用」とか、「戦略意思決定分野におけるゲーム理論の応用」といったような内容となっています。われわれコンサルタントは、お客様との話題作りや提案活動のネタとして、ホワイト・ペーパーを活用しています。


そもそも、“ホワイト・ペーパー” というのは、その名の通り、“白書” を意味します。“白書”というのは、政府が政治社会経済の実態及び施策の現状について国民に周知させることを目的とした出版物でして、その昔、英国において、内閣が議会に提出する公式報告書をその表紙の色から“ホワイト・ペーパー”と通称していたのが由来のようです。最近では、企業のマーケティング資料を指す意味もあるようで、かなり一般的に使われる呼称になってきたように思います。

 

さて、最近わが社が発行した「銀行業における最先端ITの動向」というホワイト・ペーパーを読んでいて、気付いたことが 1 つ。それは、ペーパー内の「事例紹介コーナー」に、日米欧の事例が一切存在しないのです。その代わりに、インド・南米、それに加えて、なんとアフリカ( ! )の銀行が、最先端ITのリファレンス事例として登場しているのです ! 一昔前ならば、こんなことはありえなかった。「最先端事例といえば米国」 が常識だったわけで・・・、本当に隔世の感があります。

 

「なんとねーー、時代も変わったもんだ・・・」とペーパーを読み進めてみると、こんな記述がありました。
(ちなみに、基本的にホワイト・ペーパーのオリジナルは英語です。アメリカ本社の調査部門が作るので、当たり前ですが・・・。日本語版がほしい場合は、日本法人の部門コストでプロの翻訳を雇うか、若手のコンサルタント数名が、数週間ほど徹夜してボランティアで訳すか・・・、といった対応となります。私の場合、日本語版がある場合でも、英語のオリジナルを読んで、自分なりの訳をつけるようにしています。だって、英語から日本語に訳したホワイト・ペーパーって、わけわからんものが多いんですよ、ホントに・・・。なので、以下文章も、私の訳です)。

 

・・・ ここ数年、日米欧の銀行は、最先端 IT を導入できなくなっている。リーマン・ショックに起因した経営体力の低下が主な要因であるが、もう 1 つ、“レガシー IT の呪縛” から抜けられないという要因も大きい。インド・南米・アフリカなどの新興国では、そもそも、レガシー IT が存在しなかったため、一足飛びに最先端ITを導入することが可能となっている ・・・

 

「レガシー(legacy)」というのは、「遺産・遺物」という意味で、 IT の世界でこの言葉を使う場合には、「 10 年以上前に導入した、重厚長大で、融通の利かないホストコンピュータ」のことを指します。融通が利かないわりに、だだっ広いスペースが必要で、メンテナンス・コストもかかる、だから、“遺物” なのです。
ペーパーが指摘しているのは、日米欧にはレガシー IT が厳然として存在するため、それとの継続性・連続性を保持するためには、一足飛びに最先端 IT を導入することができない。最先端 IT を導入する場合でも、それなりの期間をかけないと難しい。一方、インド・南米・アフリカなどの新興国は、そもそもレガシー IT の時代がなかったので、いきなり最先端 IT を導入することができる。よって、 IT の分野で、インド・南米・アフリカなどの新興国が、日米欧の先進国を追い抜いてしまうような状況が起きている・・・ と言っているのです。なるほど・・・、って感じですよね。

ノーベル平和賞が実践した“女性の社会進出”

 

話は変わりまして、今年のノーベル平和賞の受賞者、みなさんご存知ですか ? 受賞者は以下の通りでした。
- エレン・サーリーフ氏 (リベリア大統領)
- リーマ・ボウイー氏 (リベリアの平和活動家)
- タワックル・カルマン氏 (イエメンの人権活動家)


これら 3 氏は、全て「女性」です。ノーベル賞委員会は、 3 氏の授賞理由として、「女性の安全、そして女性の平和活動への参加のため、非暴力で奮闘した」ことを挙げています。昨今、中東・アフリカで起こった民主化運動「アラブの春」が注目されたことも、受賞の後押しになっていると思われます。

 

さて、みなさん、 3 氏の授賞理由は、「女性の社会進出」ですよね。しかし、このテーマって、アメリカが“本家”で、日本でも最近、強く推進されているものです。一体どうして、日米欧からは、この分野で評価される人物や取り組みが出てこないのでしょうか ? 

 

「中東・アフリカでは、これまでの女性の地位が低すぎた。それを普通レベルに押し上げたことに意義があるからじゃないの ? 」 ふむふむ、それはある面で当たっているのでしょう。しかし、それだけでは説明できないことがある。それは、例えばエレン・サーリーフ氏は、途上国とはいえ、既に一国の大統領なんですよ ! 先進国の中で、国の元首を女性が務めた事例って、いくつあるでしょう ? イギリスのサッチャー氏、ドイツのメルケル氏・・・ 実は数えるほどしかないのです。女性の社会進出への取り組みについて、数十年以上の実績があるヨーロッパでも、この程度でしかない。ご存知の通り、アメリカでは、依然として女性大統領は誕生していない。

 

一方、中東・アフリカは、民主主義がやっと萌芽してきたような状態で、既に女性の元首を輩出している。つまり、中東・アフリカの方が、日米欧といった先進国よりも、ある意味進んでいるわけです。これって、上述の「レガシー IT 」「最先端 IT 」の議論と似ているように思いませんか ? 


私は、日米欧における女性の社会進出が、取り組みほどには成果を上げていない理由の 1 つに、「レガシー」の存在があると考えています。わかりやすく言うと、「何だかんだ言っても、“男性を中心とした社会制度”というレガシー」です。次回のコラムでは、ビジネスの世界に絞って、女性の活躍を阻害する 「レガシー」 と、その撲滅法についてお話したいと思います。

(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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