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タカシの外資系物語

イチローと外資系( その 1 )2011.02.08

タカシ先生の失敗講義

「全く成績が上がらんなぁ・・・」
「いろいろと、アプローチを変えてはいるんですが・・・」
「いや、俺が思うに、タカシのやり方はホームランとか長打を狙いすぎなんだと思うんだけど・・・ 内野安打でもデッドボールでもいいから、とにかく塁に出ることを考えるが先決なんじゃない ? 」
「は、はぁ・・・(T-T)」


さてみなさん、一体何の会話でしょう ? タカシが草野球で監督に叱られている図 ? いやいや、実はこれ、私が学生時代にアルバイトをしていた学習塾でのやりとり。私が担当していたクラスの生徒の成績が全く上がらず、上司に叱られている図、というわけ。ま、何にしても叱られていることには変わりないわけですが・・・トホホ


私は地元の学習塾において、「中学生クラス C 」で英語を教えていました。「クラス C 」っちゅうのは、簡単にいうと塾内で最下位のクラスでして、定期テストの点数が 50 点以下の生徒が所属しています。そのような生徒に対して、私はどのような指導をしていたか ? 当時、私は大学の ESS (英会話サークル)に所属し、英語漬けの生活を送っていました。いきおい、塾の生徒に対しても高望みの理想論を掲げ、「よーし、先生に任せておけ。すぐに、定期テストで 90 点以上取らせてやる ! 」と意気込んでいたわけです。私は様々な問題集を買い込み、難問私立高の入試問題や超長文の英文読解を解かせていました。また、ヒアリングの訓練と称して、ラジオ英会話を聴かせたりもしました。自分の講義スタイルに、それなりに自負を持っていたわけです。


で、結果は ? 成績が上がるどころか、ほとんど生徒が横ばい、中には私が教える前より成績が下がってしまった生徒も出る始末。そんな状況を受けて、冒頭の会話となったわけです。
なぜこうなったのか ? それは、アプローチを間違ったからに他なりません。「クラス C 」の生徒に対して私がすべきこと、それは、「英語の点数を 95 点にすること」 でも 「難関私立高に合格させること」 でもなく、「英語の点数を、何とか平均レベルの 70 点に引き上げること」だったのです。もちろん、 50 点だった生徒が 95 点を取れば、賞賛されるでしょう。しかし、生徒も親も、一足飛びにそんなことは望んでいない。「何とか平均並の点数を取りたい ! 」 これが高額な塾代と引き換えに、親が最低限期待していることなのです。

タカシ先生の講義、大評判に ?!

「ホームラン( = 95 点)は無理でも、何とか出塁( = 平均点)させてやろう・・・」 私は塾の上司と話し合ったその日から、クラス C の指導方針を抜本的に見直しました。その内容は以下の通り。
(1) 60 分の時間割の 8 割は、教科書の復習に使う。具体的には、英語の教科書の隅から隅まで、例外なく “丸暗記” させる。日本語訳も、私が訳したものを教えて丸暗記。内容は理解できなくてもいい、とにかく丸暗記。


(2)時間割の残り 2 割の時間+宿題で、高校受験対策とする。ただし、過去問等、問題集は一切使わず、基本的な英単語・熟語のみをひたすら暗記させる。具体的には、数字(one two three・・・)・序数(first second third・・・)・曜日(Monday・・・)・月(January・・・)・季節(spring・・・)などを、来る日も来る日も、ひたすら丸暗記・・・


で、結果は ? なんと、クラスの大半が、定期テストで平均並の点数が取れるようになったのです !  ま、冷静に考えると、そりゃそうでしょう。中学の定期テストなんて、ほとんどは教科書から出題されますから、英語本文とその日本語訳を全部覚えていれば(応用が利かなくても)、平均点ぐらい軽く取れます。また、そればかりか、模試でも成果が出てきました。つまり、高校入試の英語では、基本単語と熟語を完璧に押さえていれば、平均点は取れるということです。


私の英語クラスは学区内でも評判となり、入塾希望者が殺到しました。塾の経営者からも、「奈良くん、大学を卒業したら、うちに入社しないか ? いきなり主任級で採用するよ ! 」といって勧誘されたりして・・・。内定が出ていた銀行にしようか、塾に残ろうか、真剣に悩んだものです。


「デッドボールや内野安打の積み重ねが、大きな成果を上げたな。これだよ、俺が言いたかったのは ! 俺の言った通りになっただろ ? 」
「そうすね、その節はご指導ありがとうございました・・・」


冒頭でやりとりした上司が、本当にこのような結果を念頭に置いて、私を叱ったかどうかは別として(かなり怪しいが・・・)、「デッドボールや内野安打でも、出塁は出塁 ! どんなに不細工な方法でも、試合に勝てばいい ! 」という発想は、その後の人生において、大いに参考になりました。

日米におけるイチローの評価の違い

さて、前置きが長くなりました。そろそろ本題に入りましょう。みなさんもよくご存知のイチロー選手。メジャーリーグで 10 年連続 200 本安打の偉業を成し遂げたことは、記憶に新しいところです。

そんなイチロー選手、「すごい ! 」の一言では語りつくせないほど偉大な選手であることに間違いはないのですが、その評価においては、どうも日米で若干の違いがあるようです。読者のみなさん、くれぐれも怒らないでほしいのですが、アメリカ人の同僚である M くんは、イチローに対して次のようにコメントしています。


「イチローはすごい ! すごいけど・・・ 内野安打とかバントヒットとか、ショボいのが結構あるよね・・・」


な、な、何やとーーーっ ! 内野安打だろうがバントヒットだろうが、野球は出塁してナンボやろがーーーっ ! 日本のヒーローをナメとんのか、おらーーーっ ! ハァハァハァ・・・(激高する私)。
ま、これを英語で言えるほどに英語力が伴わないので、心の中で思っているだけですが・・・(情けなし)。このコメントを聞けば、みなさんも、同じような気持ちになるのではないでしょうか ?  

 

実際には、イチロー選手は内野安打やバントヒットではなく、野手の間をきれいに抜けるクリーンヒットがほとんどなのに・・・。ホームランも、それなりに打つし・・・。 でも、アメリカ人の印象としては、「イチローはすごいけど、ホームランは打たないだろ ? 」というのが、多数派のようです(誤解のないように言っておくと、最近になってアメリカでも、イチローのような “走・攻・守” 3 拍子揃った中距離打者を評価する向きも出ているようです)。


ヒットは多くてもホームランが少ないから評価されない・・・ かつてクラス C を、それこそショボいヒットの連発で平均レベルに押し上げた私としては、納得いきません。加えて、こんな評価もあるのです。


「イチローは、ヒットの数は多いけど、○○○は一番じゃないよね!」 さて、“○○○” って、何でしょう ? 


次回のコラムでは、メジャーリーグにおけるイチローの評価を、ビジネスの世界における社員評価と比較してみたいと思います。ヒットの数以上に評価される“○○○”とは ? そこには、アメリカのビジネスにおける評価軸の優先順位が見え隠れしています。また、タカシの「クラス C 的成績向上」は、外資にどのように評価されるのでしょうか ? 次回、乞うご期待 ! 
(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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