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タカシの外資系物語

トヨタ・リコール問題 と 外資流対応 ( その 1 )2010.03.23

「トヨタ叩き」の理由

すでにマスコミでも話題になっている通り、先日、トヨタ自動車の豊田章男社長が、大規模リコールをめぐる米下院監督・政府改革委員会の公聴会で証言しました(これまでの経緯や公聴会でのやり取りについては、各メディアをご参照ください)。今回のコラムでは、これら一連の事件に関して、アメリカ人的・外資的な視点に立った見解を述べたいと思います。

 

今回、トヨタが米国で、これほどまでにこてんぱんに叩かれたのは、どうしてなのでしょうか ? これについては、一部のジャーナリストや識者からは、やれ「急激なグローバル化についていけなかった」だの、やれ「トヨタ方式の崩壊」だの、挙句には「米国の陰謀説」だの、様々な理由が取りざたされています。これらの理由はどれも、非常にもっともらしく聞こえます。なぜなら、すべて「後付け」だからです。豊田社長自身が、世論に押される形で、急激なグローバル化を原因に挙げてしまっていますが、そういう曖昧な物言いでお茶を濁すべきではない。

 

そもそも、事件が起こった後でもっともらしい理由を考えることぐらい、だれでもできるわけでして、そういうのに踊らされてはいけません。ほとんどの場合、問題の本質はもっと単純なところにあります。いたずらに、物事を複雑かつ曖昧にすべきではありません。

 

では、その本質とは何か ? かれこれ十数年にわたって、外資系企業でアメリカ人をウォッチしてきた立場から、私の見解を言わせてもらうと、それは、
「最初の段階で、謝罪せずに、あやふやにしたこと ! 」
これに尽きます。ここで少し、事件の経緯を追ってみましょう。

 

まず、昨年の 8/28 にカリフォルニアで「レクサス ES350 」の暴走事故が発生します。事故当時の生々しい音声を、みなさんもニュースでお聞きになったのではないでしょうか。その際、トヨタは「不適切なフロアマットの敷き方によってアクセルペダルが引っかかり、戻らなくなったことが原因」との見解を示しました。つまり、本件は車両の欠陥が原因ではなく、あくまでもユーザーの使用ミスなので、ユーザーの責任でマットを取り外すように求めたのです。

 

このことが、米国民のトヨタ・バッシングに火をつけました。何を言っても、もう後の祭り。それ以降の出来事は、起こるべくして起こったように思います。

まず、謝罪せよ

昨年 8/28 の段階で、トヨタはどうすべきだったのか ? 「たら」「れば」の話をしても仕方ないのですが、ベターな対応としては、まず事件について謝罪し、真相の究明をはかることを約束すべきだったと思います。

 

もちろん、アメリカは極端な訴訟社会ですから、簡単に非を認めるべきではない。うかつにも非を認めてしまったばかりに、莫大な金額の訴訟を受けるリスクが、そこかしこに存在します。

 

しかし、「謝罪すること」 と 「非を認めること」 とは違います。これが、日本人にはなかなか理解しにくい。例えば、キャッチボールをしていて、どこかの家の窓ガラスを割ってしまったとしましょう。日本的には、「ごめんなさい・・・」 と謝罪したが最後、同時に自分の非を認めてしまうことを意味します。謝った瞬間に、ガラス代を弁償する覚悟でいたほうがいいでしょう。

 

一方、アメリカ的には、次のような謝罪の仕方が成り立ちます。 
「私があなたの家のガラスを割る当事者になってしまって、申し訳なく思います。ごめんなさい。ボールが窓ガラスを割った理由は、この公園に“キャッチボール禁止”の張り紙がなかったこと、ボールが予想以上に飛ぶ材質で作られていたこと(それについて記載していないかったこと)、あなたの家の塀が低かったことなど、いろいろと考えられますが、今後その真相を究明しなければならないと思います・・・」 

 

こんな憎たらしく、理屈っぽい謝り方をされたら、思わず頭を引っぱたきたくなりますが、アメリカでは「アリ」なんです。というか、これが普通だと思った方がいい。「謝罪すること」 と 「非を認めること」 とを分離できる文化だということです。

 

よく日本人は、アメリカ人に対して「Sorry ! 」と言ったら、全ての責任を押し付けられる、などと言いますが、それは違います。実際には、アメリカ人は想像以上に「Sorry ! 」と言います。しかし、それは謝罪しているだけで、非を認めているわけではないということを、念頭に置くべきでしょう(『手荷物チェックに見る“外資流アクション”とは ? ( その 2 )』参照のこと)。責任を押し付けられるのは、「Sorry ! 」という言葉そのものではなくて、「謝罪すること」 と 「非を認めること」 とを分離して説明できていないからです。

 

話を戻しましょう。昨年 8/22 の事故に対するトヨタの対応は、謝罪がなく、想定される原因だけをアナウンスしてしまった。よって、米国民が「失礼だ ! 」と怒ったのです。本来なら、
「わが社の車で死傷事故が発生し、申し訳なく思います。不適切なフロアマットの敷き方によってアクセルペダルが引っかかり、戻らなくなったことが主要因だと思われますので、みなさん、至急マットを取り外してください。わが社は事件の真相を、徹底的に究明し、みなさんに早急にアナウンスすることをお約束します・・・」 と言えばよかったのです。

米国の陰謀ではない !

もちろん、トヨタの広報担当者は、私の言っていることなど、百も承知だったと思います。承知の上で、訴訟リスクを極小化するために、あえて強気のアナウンスをした。いわば、賭けに出たのでしょう。その部分に慢心があったのかもしれない。しかし、賭けは裏目に出た。最初のアナウンスの後、アメリカ世論の反応を見ながら、少しでも譲歩していれば、状況は変わっていたように思います。少し強気に出すぎたのかな、状況を見ながら柔軟に対応すればよかったのに・・・、って感じですね。

 

最初のアナウンスで失敗したトヨタは、その後も後手の対応に終始し、事態は悪いほうに、悪いほうに転がっていきました。結果、今回の公聴会出席につながるわけですが、事の発端は、最初のアナウンスの失敗と直後の調整ミスに尽きるのです。現に、同僚のアメリカ人数名に聞きましたが、いずれも「米国の陰謀」説には否定的でした。「トヨタはアメリカで 20 万人の雇用を生み出してるんだから、米国自らがトヨタを潰しにかかるわけないじゃん ! トヨタのアナウンス・ミスが原因だよ」 という意見。私も同様の見解です。

 

さて、トヨタのケースにかかわらず、ビジネスを行う上で、品質に関するトラブルはつきものです。特に、アメリカ社会で、またはアメリカ人を相手にする場合、そのためのリスク対策を十分にしておいた方がいい。

 

実は私、これまでの経験を通じて、「品質トラブルに関するリスク対策」を 4 か条にまとめていまして、その 1 つが、今回お話した 「( 1 ) 謝罪するが、非は認めない」 ということです。残り 3 つについては・・・ 次回お話いたしましょう。

(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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